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福岡高等裁判所 昭和40年(ラ)34号 決定

抗告人 小岩ノリエ(仮名) 外二名

申立人 中村利男(仮名)

相手方 田所ヤスコ(仮名) 外二名

主文

一、原審判を取り消す。

二、本籍福岡県○○郡○○町大字○○○六八番地亡中村清治の遺産を次のとおり分割する。

(一)、別紙物件目録記載の第一の不動産を申立人中村利男の所有とする。

(二)、同目録記載の第二の不動産を相手方中村幸子および中村則男の共有とする。

(三)、申立人中村利男は相手方田所ヤスコ、小岩ノリエ、田川イツコに各金四六万一、九四六円、相手方中村伸男に金四三万二、四九二円をそれぞれ支払え。

(四)、相手方中村幸子および中村則男は連帯して相手方中村伸男に金二万九、四五四円を支払え。

三、原審および当審における本件手続費用は、これを六分して、相手方中村幸子および中村則男は連帯してその一の、その他の相手方ならびに申立人は各その一宛の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。右抗告理由の第一点は、本件遺産全部の評価額を原審判では金二八九万円と認定しているが、それは低廉に過ぎるものであり、抗告人らの計算としては、最少限金三五〇万円を下らないものであるから、相続人六名の平等分割として各人は金五八万三、三三三円宛の配分を受くべきものである、というにあるが、しかし、本件遺産の評価額が抗告人ら主張の評価額をもつて相当と認めるべき資料はなく、却つて原裁判所の鑑定命令に基づいて提出された鑑定人牟田巖作成の評価書記載の評価額をもつて、本件遺産の適正評価額と認めるのが相当であるから、抗告人らの右主張は採用することができない。

つぎに、抗告理由第二点は、抗告人らが右評価額の認定について意見を述べる機会を与えられなかつたことが不当であるとし、抗告理由第三点は、原審判に基づく申立人の金員支払の履行確保が困難であるとし、これが善処方を求めるものであるが、いかなる資料に基づいて遺産の評価額を認定するかは、裁判所の自由裁量によるべきものであつて、その評価額の認定について、必ずしも相続人らの意見を聞かねばならないというものではなく、また申立人の金員支払の履行確保が特に困難とすべき事由も窺えないので、右各抗告理由も採用の限りではない。

しかしながら記録を精査すると、前記鑑定人牟田巖作成の評価書によると、本件遺産(別紙物件目録記載の不動産)のうち福岡県○○郡○○町大字○○字○六七六番の一の田については、その面積を七畝歩として、その評価額を金一二万六、〇〇〇円と記載しているが、右田の面積はその登記簿抄本では七畝六歩となつているので、右評価書の示す右田の評価額は妥当でなく、その面積が七畝六歩あるものとして、これが評価額は右評価書の示す評価額を基準とする按分比例により算出した金一二万七、〇八〇円と認めるのが相当であり、また、右評価書には同所六七二番田六畝九歩(評価額金一一万三、四〇〇円)については二重に重複して記載されているので、その二重の部分を除外すべく、その結果本件遺産全部の評価額を右評価書の示す各不動産の個々の評価額(なお、右評価合計額については誤算がある)に従つて算出すると、その合計額は金二七七万一、六八〇円となる。そして、記録に徴すると、亡中村清治は昭和三一年六月一八日死亡し、その相続人は申立人中村利男(長男)、相手方田所ヤスコ(二女)、同小岩ノリエ(三女)、同田川イツコ(四女)、同中村伸男(四男)、亡中村昭男(五男)の長女である相手方中村幸子および長男である相手方中村則男であつて、右幸子および則男は亡五男昭男の代襲相続人であるから、右両名で昭男の相続分を共同相続すべきものとなり、従つて右各相続人の本件遺産の相続分はその各六分の一宛(但し、右幸子および則男は両名でその六分の一)となり、これを金額に換算すると、各金四六万一、九四六円となる。しかして、本件遺産はすべて不動産(田、畑、宅地、建物)であつて、相手方田所ヤスコ、同小岩ノリエ、同田川イツコ、同中村伸男はいずれも右不動産の所在地には居住せず、その他記録に現われた民法第九〇六条所定の一切の事情を考慮するときは、申立人中村利男に対しては別紙物件目録記載の第一の不動産を、相手方幸子および則男に対しては同第二の不動産を各分割所有せしめ、その他の相手方に対しては金銭に見積つて相続分以上に不動産を取得する者から、その相続分を金員で支払うこととするのが相当と認める。そこで、前記評価書の示す各不動産の評価額に従い算出すると、相手方幸子および則男が取得する第二の不動産の合計評価額は金四九万一、四〇〇円となるので、相続分より金二万九、四五四円多くなるから、右超過分は相手方中村伸男に支払うべきものとし、更に申立人中村利男は相手方田所ヤスコ、同小岩ノリエ、同田川イツコに各金四六万一、九四六円宛、相手方中村伸男に金四六万一、九四六円より金二万九、四五四円を控除した金四三万二、四九二円をそれぞれ支払うべきものと認められる。

よつて、家事審判規則第一九条第二項に則り、これと異なる原審判を取り消し、前記認定のとおりこれに代わる裁判をすることとし、本件手続費用の負担については、主文第三項記載のとおり負担させることとして、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 岩崎光次 裁判官 入江啓七郎 裁判官 小川宜夫)

物件目録〈省略〉

抗告の理由

一、本件遺産分割審判事件につき各相続人への遺産の分割に際し、被抗告人たる中村利男に対し不動産の殆んどを与え、抗告人等は不動産所在地に居住せざることを理由に金銭を以て相続分に代え、被抗告人にその支払を命ずる審判がなされたことはやむを得ぬところとして認むるが、その金額について異議があるので本抗告に及ぶ次第である。

(1) すなわち、前審判においては、本件不動産(被相続人亡中村清次の遺産全部)の評価額の合計を金二八九万円也とし、相続人の相続分は各その六分の一宛であるとして、これを金四八万一、六六六円也と換算しているが、右評価額の合計は時価に比しあまりに低廉である。抗告人等の計算としては、評価額の合計は最少限三五〇万円也を下らず、従つてその六分の一の相続分も金五八万三、三三三円を下らないのであり、被抗告人は右五八万三、三三三円也を各抗告人に支払うべきものである。

(2) 抗告人等は本件審判に際しては、審判官より遺産を金銭を以て支払を受くることにつき、その評価について意見を述べる機会を持つことが出来ずして、本審判を受けたのであるが、若し出頭して居れば、評価が低廉にすぎることにつき十分異議を述べる筈であつたのである。

(3) 又被抗告人はすでに十年来、抗告人等と相続に関して対立しており、抗告人等に対し一銭もやらぬと放言している点及び、被抗告人は田舎で農業を営む意思なく、本件不動産を相続の上はこれを売却して他に転出する予定であることは明瞭であり、かくては抗告人等に対する金員の支払は履行されざること殆んど確実であるので、被抗告人が前記金員を家庭裁判所に寄託することを条件とする審判を仰ぐべきことも求めたかつたのであるが遂にその機会がなかつたのである。

以上の通りでありますから、抗告の趣旨の通りの御裁判を仰ぐ次第であります。

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